NHKクローズアップ現代 「論文不正はとめられるのか ~始まった防止への取り組み~」を見て 中篇
前篇からの続きを書きたいと思います。
- あとを絶たない論文不正 信頼は取り戻せるか
スタジオには浅島誠氏(日本学術振興会理事)がゲストとして出演していました。
初めに少し注意が必要だと思っているのは、でっちあげの研究というか悪い研究をしている人はそんなに増えているわけではない、そのことは理解しておいてほしいということです。そして、ただ手を抜いたり、雑な研究が少し増えているのかなというような印象を持ってます。
前篇で述べた加藤研の場合だと実験データ(電気泳動)を切り貼りして架空のデータをでっち上げたわけですが、どこまでやれば「でっち上げの研究や悪い研究」になるんでしょうか。手を抜いたり、雑な研究によってデータがでっち上げられるという気もします。あくまでも、そういう「印象」を浅島氏がもっているということなんでしょう。「でっち上げの研究や悪い研究」と「手抜き・雑な研究」の区別(境界)は曖昧だと個人的には思うので、この発言からは件数はともかく研究不正が最近増えていると言っているに等しい気がします。
続きを読むNHKクローズアップ現代 「論文不正はとめられるのか ~始まった防止への取り組み~」を見て 前篇
NHKのクローズアップ現代(2015年3月10日放送)で研究不正に関する話題が取りあげられました。こちらで番組を文字に起こしたものが閲覧できるのでいろいろツッコミながら見ていきたいと思います。番組の前半はかつて私も取りあげた東大分生研(加藤研)の話です。
続きを読むオーサーシップと研究不正
前の記事では研究不正(ミスコンダクト)の定義について書きました。現状ではオーサーシップに関わる不適切な行為(ギフトオーサーシップなど)の扱いは機関によって異なる、つまり明確な研究不正というよりはグレーゾーンな問題であると捉えられているようです。しかし、不適切なオーサーシップはグレーではなく、れっきとした研究不正であると私は思っています。
論文の「筆者」(=オーサーシップを持つ資格がある人)とは『発表された研究の内容に責任を持ち、研究において十分な貢献を果たした人々』 のことで、『助言や技術的な協力をしただけの人』や『データの収集だけを行った人』、『研究チームの責任者というだけで実質的な貢献のない人』は「筆者」ではないとされています[1]。
この定義にそぐわない不適切なオーサーシップの代表例としてはギフトオーサーシップとゴーストオーサーシップが挙げられます。ギフトオーサーシップとは本来筆者の資格がないにもかかわらず「贈り物」のように筆者に加える行為でゴーストオーサーシップは筆者に加えるべき人物をあえて加えない行為のことです。
なぜ、私がこのような不適切なオーサーシップを研究不正と考えているのかというとオーサーシップ自体がその論文の科学的な事実の一端を担っているためです。つまり、オーサーシップには「誰が」、「どのような」研究を行ったかという科学的な事実が反映されなければならないからで、不適切なオーサーシップはある意味実験データの改ざんに近いものだと思っています。研究不正というと実験データの改ざん・捏造等の問題がクローズアップされがちですがオーサーシップの問題も重要視されるべきです。
[1] 科学者の不正行為 -捏造・偽造・盗用ー 山崎茂明著 丸善株式会社 2002
研究不正の定義
このブログで研究不正の話をいくつかしているので、ここで研究不正の定義について少し考えて見たいと思います。
英語では研究不正のことをミスコンダクト(Misconduct)と言い ます。日本では研究不正と言われることが多いですが、法律上の不正行為との誤解を与えかねないので日本学術会議などはミスコンダクトの呼称を使っているようです。(個人的には研究不正という言葉の方がしっくりくるのですがみなさんはどうでしょうか。)
主要なミスコンダクトは以下の3つ(略してFFPともいう)に分けられます。
- 捏造(Fabrication)
- 改ざん(偽造、Falsification)
- 盗用(剽窃、Plagiarism)
このほかの広い範囲での不適切な行為に対してどのように対処するかは国や機関によって異なります。具体的には
- 論文の多重投稿
- ギフトオーサーシップ
- 不適切な論文引用
などがFFP以外の不適切な行為として挙げられます
これらの定義はアメリカで議論されてきたものですが現在ではアメリカ以外の国にも取り入れられています。文部科学省や日本学術会議などの議論では狭い定義でのミスコンダクト(=FFP)を念頭に置いていることが多いようです。[1]
次の記事ではミスコンダクトについての私見を書いてみたいと思います。
[1]背信の科学者たち ウイリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド著 牧野賢治訳 講談社 2014
インパクトファクター(IF)ってなに?
自分が大学に在籍していた時にはよく指導教員から「出した論文で教員の評価が決まる」なんて言われたものですが、いったいどんな論文を出せば高い評価が得られるのでしょうか?
おおよそこのような人が言うところの「評価を得られる論文」とはインパクトファクター(IF)という数値が高い雑誌に掲載された論文のことを指していると思われます。IFの高い雑誌としては最も権威のある科学雑誌といわれるNature(ネイチャー、英)やScience(サイエンス、米)などが有名でしょうか。2013年のIFはNatureで42.351、Scienceで31.477となっています。これだけだとピンと来ないかもしれませんが日本化学会のBulletin of the Chemistry Society of Japan(ブルケム)のIFが2.222であることを考えるとScienceとNatureの値は驚異的だといえます。ではインパクトファクター(IF)が高い雑誌に掲載された論文は良い論文とみなしていいのでしょうか?この点をもう少し詳しく書いていきたいと思います。
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