理系凡人のつぶやき

科学に関することだけでなく興味があることについていろいろと書いていくつもりです。

NHKクローズアップ現代 「論文不正はとめられるのか ~始まった防止への取り組み~」を見て 前篇

 NHKクローズアップ現代(2015年3月10日放送)で研究不正に関する話題が取りあげられました。こちらで番組を文字に起こしたものが閲覧できるのでいろいろツッコミながら見ていきたいと思います。番組の前半はかつて私も取りあげた東大分生研(加藤研)の話です。

加藤元教授たちの論文は国際的な学術雑誌に数多く掲載され、その研究は国の大型事業にも採択されるなど、およそ15年間で30億円の研究費が費やされていました。

1996年から2012年にかけて発表された165の論文を調査。
論文に関わった研究者にも聞き取りを行い、疑惑を解明していきました。
そして去年12月、最終報告書を公表し33の論文を不正と認定。
加藤元教授を含む11人が関与したと発表したのです。

 15年で30億円ですから年平均で2億円もの研究費を使っていたわけで「研究費」だけでみると加藤氏は相当やり手の研究者だったみたいですね。165の論文の1/5にあたる33の論文が不正認定されたわけで、多少無理のある単純計算をすると30億円の1/5、つまり6億円が不正な論文の作成に費やされたとみることもできます。もっとも不正な論文のなかにも少しぐらいは真正なデータも含まれているでしょうから完全に無価値であると断定することは出来ませんが。

報告書では発生要因として、データ確認がずさんだったことを指摘。
中でも目を引くのが「仮置き」と呼ばれる具体的な研究手法を挙げ、不正の一因になったと断じている点です。

ところが実験を行う前に、過去の実験結果をつなぎ合わせるなどして仮の実験結果を作成する場合があります。これが「仮置き」です。

いちばん疑問に思ったのがこの「仮置き」の部分でした。 ある程度実験の結果を予測して得られるデータの想像をしておくのは当然ですが、わざわざパソコン上で別の実験のデータを流用して作成する必要はあるんでしょうかね。こういうのはさっさと手書きでやってしまえばそれで済むと思うのですが・・。

ところが今回の不正論文の中には、仮置きのデータがそのまま掲載されているものもありました。
論文に関わった研究者はケアレスミスだと主張するのに対し、大学は不正と認定しました。

調査関係者
「仮置きを本来のものと置き換えるのを忘れていたということ自体考えられないことで、実際に忘れていたかどうかを(実験)ノートでチェックすると、実験をやったという形跡が見られない。
真実を明らかにしようとする行為が科学だと思うけれど、真実を明らかにしようとしていないという、全くのフィクションですね。」

う~ん、やっぱりか、という感じです。実験をせずに論文を書くためにデータの切り貼り・流用をして望むデータを作り出していたということなんでしょうね。

当時加藤研に在籍していた研究者に研究室の雰囲気をメールで聞いたところ

“実験結果をもとに報告した場合、実験結果を認めず、求めるデータを出すように迫られた。”

“実験データのグラフの誤差の値が大きいと、小さくするよう意図的にデータを省くように指示をされた。”

とのこと。このあたりはパワハラアカハラが混然一体としているブラック研究室の雰囲気そのものですね。下のはともかく上のような「脅迫」はブラック研究室に在籍したことがある人なら言われた経験があるかもしれません。求められたデータが出るまで何かにつけて小言を言われたり、休みを取りにくかったりとか。このようなことを言う人に対しても周囲からは「あの人は研究に厳しい」なんて言葉で済まされて、実際に被害を受けている当人たち以外からはあんまり問題視されないんですよね。

不正認定された加藤氏は

「論文作成や受理の過程で強制的な態度や過度の要求をしたことはなく、一部の証言のみに基づいた最終報告に承服できない」としています。

とのことで自分に全面的な非があるとは思っていないようです。この記事を書いていると理研が小保方氏の告訴を見送るとのニュースが入ってきました(2015年3月16日)。東京大学は加藤氏が不服申し立てをして、裁判でも起こしたらどうするつもりなんでしょうか。不正を行った確たる証拠がある以上は大学は厳しい姿勢を崩さずにいてほしいと思っています。

 

中篇に続きます