理系凡人のつぶやき

科学に関することだけでなく興味があることについていろいろと書いていくつもりです。

NHKクローズアップ現代 「論文不正はとめられるのか ~始まった防止への取り組み~」を見て 中篇

 前篇からの続きを書きたいと思います。

  • あとを絶たない論文不正 信頼は取り戻せるか 

スタジオには浅島誠氏(日本学術振興会理事)がゲストとして出演していました。

初めに少し注意が必要だと思っているのは、でっちあげの研究というか悪い研究をしている人はそんなに増えているわけではない、そのことは理解しておいてほしいということです。そして、ただ手を抜いたり、雑な研究が少し増えているのかなというような印象を持ってます。

前篇で述べた加藤研の場合だと実験データ(電気泳動)を切り貼りして架空のデータをでっち上げたわけですが、どこまでやれば「でっち上げの研究や悪い研究」になるんでしょうか。手を抜いたり、雑な研究によってデータがでっち上げられるという気もします。あくまでも、そういう「印象」を浅島氏がもっているということなんでしょう。「でっち上げの研究や悪い研究」と「手抜き・雑な研究」の区別(境界)は曖昧だと個人的には思うので、この発言からは件数はともかく研究不正が最近増えていると言っているに等しい気がします。

文科省によるガイドラインが2006年に制定された後でも不正が繰り返されているのはなぜかと問われた時の浅島氏の返答は

ガイドラインを作ったあとも、それを守るようにそれぞれの機関は努力は続けてきたと思うんです。ただそれ以上に、研究者にとってプレッシャーというのはすごく大きかったと思ってます。短時間に成果を出すこと、そういうプレッシャーがあって、ねつ造などが生じたんだというふうに思ってます。

 とのこと。STAP細胞事件の現場となった理化学研究所はこのガイドラインよりも先に、日本の研究機関として初めて所内に論文不正などの不祥事を扱う「監査・コンプライアンス室」を設立しています(2005年4月)。同年さらに主任研究員などで構成される理研科学者会議が「科学研究における不正行為とその防止に関する声明」を発表するなどしてきたわけですが、STAP事件が起こったこと、その後の理研の対応を見る限りこの手のガイドラインの制定にどれだけの意味があるのか疑問符が付くところではあります。プレッシャーが大きすぎて捏造が起こるならば、競争的に獲得する研究費の割合を減らしたりするなどしてなるべくそのプレッシャーを減らすようにするべきなのではと感じました。ただ、加藤研の事件を見る限り大型の研究費を当てている研究室でも不正が起こっているので対策は一筋縄ではいかないんでしょうね。

 

  • 論文不正 始まった対策 信頼は取り戻せるか

次々に起こる論文不正問題に対し、国は去年8月、それまで運用されていたガイドラインを改訂。強化に乗り出しました。

特に重視しているのは、倫理観の向上とデータ管理の徹底です。
倫理観の向上では、個人の努力に任せるだけでなく、大学や研究機関が主体的に教育を行うことが義務づけられました。
来月(4月)から運用が始まるこの新たなガイドラインを受けて、大学などはどう倫理教育の環境を整えるか模索を始めています。

大学教授
「いちばん苦心するのは、いかに現場の注意を喚起するか。
『(自分には)関係ない』と絶対に思わせないためにはどうするか。」

「大学や研究機関が主体的に教育を行うことが義務づけられた」のは当然だと思います。そういえば小保方さんも「自己流でやってきてしまった」なんて言っていましたし、個人的な倫理観だけでは変な方向に行ってしまう可能性があります。

現場の注意をいかに喚起するかが一番難しいところでしょうね。STAP事件が起こる以前のことですが、ある教員と大学で起こった研究不正について会話したところ、

自分「○○先生のところで不正があったみたいですね」

教員「そうみたいだね。でも俺たちには関係ないよ。俺たちはあいつ(不正を起こした研究者)とは違って由緒ある研究室の出身だから」

なんて感じで全然自分には関係ないというスタンスでした。個人的にはどんな研究者であっても不正を起こし得るし、共著者の起こした不正に巻き込まれうると当時から思っていたので危機感がないなあと少しあきれたことを今でも覚えています。

講演の中でたびたび話題に上がったのが、パソコンなどを使い倫理教育を行う「eラーニング」です。

 教材としてe-ラーニングを使うのはありだと思うんですが、どうしてもパソコンの前に座ってやる教育だと多少いい加減になりそうな気はします(自分が古い人間だからかもしれませんが)。結局、講演を聞かせようが、e-ラーニングをやらせようがそれが身に染みていないと意味がないのでこのような倫理教育は普通の教科と違って難しいところですね。

 

長くなってしまったので後篇へと続きます。