理系凡人のつぶやき

科学に関することだけでなく興味があることについていろいろと書いていくつもりです。

NHKクローズアップ現代 「論文不正はとめられるのか ~始まった防止への取り組み~」を見て 後篇

中編からの続きです。

 

一方、改訂されたガイドラインのもう1つの柱となっているのがデータ管理の徹底です。来月の運用開始に先駆けて、環境を整えている大学があります。 

東京大学分子細胞生物学研究所では、論文不正の疑惑が起きた直後から実験データをすべて保管するという厳格なルールを定めました。

倫理教育と同時に、実験で得られたそのままのデータ(=生データ)を保存する取り組みが本格化してきたようですが、妥当な方針だと思います。不正を防止するのに効果的な手段のひとつでしょうね。生データが保存されていれば実際に実験をやったかどうかや不正が疑われるデータとの比較が容易にできるからです。

さらに民間企業でも、画像データの不正を防止するための取り組みが始まっています。

実験データの画像解析ソフトを製作している島原佑基さんです。

画像解析ソフト開発会社 島原佑基代表取締役
「こちらが、画像不正の検出ソフトウェアのオンライン版です。」

 こんなものまであったのか・・という感じで軽い衝撃を受けましたね。紹介されていたのは電気泳動のデータ改ざんでしたが、このソフトを使うとはっきりと不自然なデータ処理(加工)が行われていることが分かります。余談ですが生物分野のような画像が論文の主たるデータとして取り上げられる分野ならこのようなソフトで不正論文の判別が可能かもしれませんが、そうでない分野ではどのようにしてデータの改ざんを見分ければいいのでしょうか。私の専門は有機化学だったのですが、基本的に写真や画像なんかは論文には載せずに、Experimantal(実験項)にNMRスペクトルのチャート(化合物の構造を示すデータ)をつけるといった感じでした。このような分野だと生物分野のような「画像の間違い探し」による不正発見は困難でしょう。世をにぎわせている研究不正は生物分野が多いですが、化学の分野でもデータの改ざんが行われている可能性が高く、それが露見していないだけではないかと個人的には思っています。

  • あとを絶たない論文不正 信頼は取り戻せるか

e-ラーニングの効果をどう見るかを聞かれた浅島氏の返答は

 1つは科学のもたらす影響が非常に大きくなりまして、そして科学の進歩というのは、もう本当にものすごい勢いなんですね。そうしたときに、新しい情報をきちっと手に入れて、そして倫理を守るということが重要なんです。 

科学の進展に伴って、そういう意味ではちゃんと皆さん、いわゆるポスドク(=ポストドクター・博士研究員)とか学生から教授までそういうものをきちっと学んでおくことが、今の状況では必要になってきたということです。

 とのこと。最近では違う分野同士での共同研究も増えてきていますから共通認識として倫理を学ぶことは極めて重要でしょうね。ただ、研究分野によって風土、伝統が相当異なりますから共通の倫理観をもつようにするのは相当難しいのではないかと思います。

データ保存の徹底については

データの保存とか資料の保存ですけれども、整理をすることは、これは当然しなきゃならないことですけども、ただし、どのような方法をとるかというのは、それぞれの機関が明確に示しておくことが必要になってくると思います。ですから一律にするんではなくて、それぞれの機関がそれぞれの分野において、あるいは機関においてちゃんとしていくことが、これから必要になってくるんではないかという思ってます。

とのこと。一律にするかはともかく実験機器を使ってデータを取った際に原則的に改変できない形で生データがサーバに保存されるのが一番いいと思います。簡単にアクセスされると改ざんされる恐れがありますから。

根本的原因としては過度な競争・プレッシャーを減らすことと、それからそもそもいい科学をするために、やっぱり科学者が落ち着いて研究できるような環境、そして研究が萎縮しないような方法をとることが大切です。

競争によって他を出し抜き成果を出そうとすることと研究不正は常に背中合わせに存在するものだと思います。競争をする以上は不正の誘惑が常に付きまとっているはずです。したがって、研究の萎縮云々の前にこれまで研究不正への対策が本格化していなかったことがそもそも異常であったとみるべきでしょう。

 

  • 全体を通しての感想

正直な感想を言うと日頃から研究不正に興味をもってある程度の知識を持っている人からすれば物足りない内容であったと思います。ただ、題名にあるように「始まった防止への取り組み」を紹介する、一般の人にも興味を持ってもらうという点では専門的になりすぎず良かったのではないかとも思います。