理系凡人のつぶやき

科学に関することだけでなく興味があることについていろいろと書いていくつもりです。

「嘘と絶望の生命科学」を読んでみた 前編

 「嘘と絶望の生命科学」(榎木英介著、文春新書)を少し前に読みました。筆者の榎木氏は他にも「博士漂流時代」や「医者ムラの真実」(どちらもディスカヴァー・トゥエンティワン)などの本を執筆されている病理医の方です。

嘘と絶望の生命科学 (文春新書 986)

嘘と絶望の生命科学 (文春新書 986)

 

タイトル通り生命科学に関する「黒い話」についてあれこれ書かれていますが生命科学分野以外にも当てはまりそうな話題がどんどん出てきます。自分が気になったフレーズを取り出して感想なりツッコミなりを入れていきたいと思います。

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流し台に水銀ポイ! 女学生には暴言…京都工繊大の教授に停職処分

適当に科学関連のニュースを漁っていたらびっくりするようなニュースを見つけました。

もうどこから突っ込んでいいのかわかりませんがすごいことをやらかした教授がいるみたいです。さらにアカハラまがいの発言もしているようです。

下水に流していた「水銀」が毒性の強い有機水銀なのか比較的毒性の弱い無機水銀なのかはわかりませんがどちらにしても許されることではないでしょう。実験で生じた廃液、廃棄物の処理に細心の注意が必要なことは学生実験なんかでしつこく言われたはずですが…この教授は学生時代にまともな教育を受けていなかったんでしょうかね。もしそうなら当時の指導教官にも責任ありだと思います。しかも、廃棄の不備を指摘した学生に暴言を吐くあたりなんともひどい教授のようです。平成3年(1991年)頃から水銀廃液を流しに捨てており、かなり悪質ですが大学の処分は停職6カ月とのことで、もっと厳しく処罰してもいいのではと思いました。

この事件とは別の少し古い話ですが、廃液に関する研究者の意識は世界的にそんなに高いものではないのかもしれません。

STAP事件の知られざる被害者

 STAP事件では再生医療に期待する患者さんが失望させられたり、前の記事で紹介したように多額の経費(税金)が疑惑の検証に使われたりと様々な被害が出ました。しかし、表には出てこない「被害者」もたくさんいたはずで、その一つが研究活動おいて実質的に実験を担っている若手の研究者(ポスドク、学生)だと思っています。

 STAP論文は生物学に関して教養程度の知識しかない自分でも衝撃的でした。まさか、そんなに簡単に多能性をもつ細胞が作れるなんて…ある意味iPS細胞を超える発見じゃないだろうかと思っていました。自分のような分野外の人間でさえ衝撃的であったのですから、実際に再生医療など幹細胞を扱う研究者の衝撃は相当のものだったと容易に想像できます。この分野は競争が特に激しいですから全世界で猛烈な追試が行われたことは間違いないでしょう(そのおかげで早期に不正が発覚したと言えるかもしれません)。しかし、後に明らかになった通りSTAP細胞はデタラメだったわけで、デタラメのために無駄な追試が行われてしまったわけです。この追試を実質的に担っていたのは上述したように「若手の研究者」だと思われます。彼らは成果を出して職を得なければならず、無駄なことに時間を費やす余裕などありません。金銭的な面だけを考えても彼らに相当な被害が出ていると言えます。さらに「うまくいくはずのない追試」をやらされて精神的にも相当つらかったでしょう。こういうところに思いを巡らすとSTAP事件は相当に深刻で、論文の筆者たちの責任は極めて大きいと思います。不幸中の幸いだったのは1ヶ月程度で疑義が生じ、STAP細胞に対する不信感が早期に極めて大きくなったことかもしれません。

 

 

 

STAP事件の顛末

こんなニュースが入ってきました。

headlines.yahoo.co.jp

理研によると、疑惑が発覚してから約1年間にかかった主な経費の内訳は、STAP細胞の有無を調べる検証実験1560万円▽研究室に残った試料の分析1410万円▽二つの調査委員会940万円▽記者会見場費など広報経費770万円など。弁護士経費など2820万円、精神科医の来所など関係者のメンタルケアに200万円を支出していた 

弁護士経費が思いのほか高くてびっくりしましたが、上の経費でまず必要ないのがSTAP細胞の有無を調べる検証実験」でしょうね。なにせ、そもそもSTAP細胞は存在せずに、ES細胞の混入で説明できるわけですから。早期に問題が決着していたならばその他の高額な経費はもっと少なくて済んだのかもしれません。このあたりは後手に回り続けた理研の対応に問題があったと思います。

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NHKクローズアップ現代 「論文不正はとめられるのか ~始まった防止への取り組み~」を見て 後篇

中編からの続きです。

 

一方、改訂されたガイドラインのもう1つの柱となっているのがデータ管理の徹底です。来月の運用開始に先駆けて、環境を整えている大学があります。 

東京大学分子細胞生物学研究所では、論文不正の疑惑が起きた直後から実験データをすべて保管するという厳格なルールを定めました。

倫理教育と同時に、実験で得られたそのままのデータ(=生データ)を保存する取り組みが本格化してきたようですが、妥当な方針だと思います。不正を防止するのに効果的な手段のひとつでしょうね。生データが保存されていれば実際に実験をやったかどうかや不正が疑われるデータとの比較が容易にできるからです。

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