理化学研究所理事長に松本紘・前京都大学長が就任
理研の新理事長に全京都大学の学長である松本鉱氏(前京大学長)が就任しました。
これ自体は特別注目するところはないのですが、最後あたりの文章が気になりました。
理研は1日、退任した野依良治前理事長(76)を相談役に任命したと発表。31日付で退任した川合真紀・前理事も、1日付で理事長特別補佐に就任した。
Yahoo!ニュースのコメント欄でも指摘されてしますが、これはどうなんでしょうかね。組織を一新して出直すという点では評価できない人事でしょう。
理研CDBの処遇についても似たように煮え切らない人事が行われています。STAP問題の改革委員はもともと理研CDBの解体を求めていましたが、実際は縮小出直し、交代を求めていた研究担当理事とコンプライアンス担当理事も留任していました(こちらのニュース)。
このような対応を見る限り改革委の提言を真剣に受け止めているようには思えません。
「嘘と絶望の生命科学」を読んでみた 後編
- 研究不正ー底なしの泥沼
実は小保方氏のSTAP細胞論文が騒動になりはじめたとき、バイオの科学者たちは、それほど驚かなかった。(中略)実はバイオ研究の論文は結構適当で、ときにウソが混じっていることは、バイオ研究者のあいだでは広く知られたことだったのだ。
この辺りのことは実際の研究に携わったことがあるならバイオに限らず経験したことがある人は多いのではないでしょうか。化学系の私自身も論文に書かれた通りの条件で追試をやっても再現が得られないことがよくありました。それが実験の腕前によるものなのか、いわゆるチャンピオンデータのせいなのか、はたまた論文の結果そのものがSTAPのようにでっち上げのせいなのかはなかなか判断が付かないものです。最先端の研究には特につきものの「実験結果の不確かさ」が研究不正が発覚する妨げになっているとも言えます。なお、かの有名なクローン羊ドリーの論文は発表後になかなか追試が成功せず、懐疑的に見られたこともあったようですが若山氏がクローンマウスを作成するなどして歴史的事実として確定したそうです。
続きを読む「嘘と絶望の生命科学」を読んでみた 中編
前編からの続きです。
教授たちは、大学院生やポスドクの問題で大きな声をあげることはない。自分たちの学問の自由を侵すものには反対するのに、若手研究者たちの学問の自由を奪いながら研究している。
大学院生やポスドク、テクニカルスタッフなどのピペドを使い、時に監視カメラまで使い、朝から朝まで働かせ、成果を求める。逆らえばアカハラまがいに学位、推薦状、場所、機器の使用などの停止、雇用終了で脅しをかける。ピペドが潰れても、新しいピペドを補充。この構造で得をしているのは、明らかに教授やチームリーダーなどの研究室主宰者だ。
国がギリギリと短期の研究成果でリーダー研究者にプレッシャーをかけ、リーダーがピペドたちにギリギリとプレッシャーをかける。(中略)結局誰も得をしていないのではないのか。
2000年までにポスドクを1万人まで増やすという「ポストドクター等1万人支援計画」や運営交付金の減額(毎年1%)、競争的資金など外部資金への依存度の上昇(1990年では内部資金と外部資金の比がおよそ9:1だったのが2011年では7:3へと変化した)などが国の政策として進められてきたわけですが、その結果として前編や上に書いたような悲惨な状況が生じてしまっています。以前記事にしたように研究者には不正を誘発するようなプレッシャーがかけられています。それではこのような苛烈な競争環境を強いたことで望むような成果が出ているかというと、そうでもないようです。
エルゼビア社の調査では、全分野の論文数をみると、論文数を増やす諸外国に対し、日本のみ2000年代半ばからまったく増加がみられず、逆に低下している。
という有様。論文数だけで評価することはできないかもしれませんが、日本の科学だけが取り残されている感が否めません。
後編へ続きます。