「嘘と絶望の生命科学」を読んでみた 前編
「嘘と絶望の生命科学」(榎木英介著、文春新書)を少し前に読みました。筆者の榎木氏は他にも「博士漂流時代」や「医者ムラの真実」(どちらもディスカヴァー・トゥエンティワン)などの本を執筆されている病理医の方です。
タイトル通り生命科学に関する「黒い話」についてあれこれ書かれていますが生命科学分野以外にも当てはまりそうな話題がどんどん出てきます。自分が気になったフレーズを取り出して感想なりツッコミなりを入れていきたいと思います。
最初から
「小保方さんなんてかわいいほうですよ。もっと真っ黒な人、いっぱい知っています。」
という榎木氏知人の衝撃的な言葉が登場します。STAP事件は理研CDBが大々的に宣伝を行い、小保方さんを持ち上げたのでその後の不正疑惑でも研究不正としては珍しくメディアによって大きく取り上げられました。しかし、今のところ不正が確定して論文が取り下げられたのは2報のみ(Natureのレターとアーティクル)で、規模だけを言うと33報の不正が認定された加藤研の方が大きいと言えますから「小保方さんなんてかわいいほう」というのはあながち間違いではないのかもしれません。
ある教授は、「大学院生にアタマはいらない」と言い放った。ある教授は、「大学院生はただでつかえる労働力」と断言した。学生が文句を言っても、博士号やらないぞ、実験器具使えないようにしてやるぞ、といえば、学生は震え上がって黙るしかない。誰も権力者には逆らえないのだ。
「アタマはいらない」とか言いつつも教員の指示を理解し、実験を成功させ良いデータをもってくるだけの「アタマ」がないと大抵の教員は怒ると思うんですが…。ここでいう「アタマ」というのは教授に反抗してくるだけの理性のことでもいっているんでしょうか。上司からの激しいプレッシャーにさらされながらマイクロピペット(バイオでよく使う実験器具)を握り、ひたすら奴隷のように実験に励む学生やポスドクのことを「ピペド」(ピペット奴隷)というそうですが、このような言葉が生まれた背景が上の教授たちの言葉から容易に想像できます。
ある研究室では、トイレに行くのにも上司の許可がいるという。あるいは日中に論文を読むことを禁止している研究室もある。監視カメラで研究室の行動を監視している研究室もある。(中略)私の知人は大学院生時代、思った通りの研究成果が出なかったために、指導者から殴られたという。
最後のはもはや犯罪だと思うんですが…。研究室選びはくれぐれも慎重にしたほうがいいです。
それでは劣悪な環境に身を置いて業績を上げようとする学生が大学でポストを得られるかというと
現在、大学院修了者数は教員新規採用者数を大きく上回っている。大学院博士課程の新卒者が大学の教員のポストを獲得できる割合は1割程度。
という厳しい現実が待っています。それでは民間企業への就職はどうかというと
研究開発企業974社のうち、研究開発にたずさわる人材として博士課程修了者を雇った企業は101社(10.4%)。うちポスドクを雇った企業は11社(1.1%)に過ぎない。
というこれまた厳しい状況です。私は博士課程に進学することを全面的に否定するつもりはないのですが、アカデミックや専門以外の進路のことも頭に入れて進路選択を行わないと人生が「詰み」かねません。
中編に続きます。